スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【おためし】みかんちゃんオーバードライブ【第1話分】

先日のニコ生中継のときに

「みかんちゃん、webでも読めないの?」

との声をいただきましたので

とりあえずおためしとして

現在3冊発行しているうちの1冊分を

こちらでアップいたします!!



overdrive1



拙い文章ですが、もし興味を持っていただけたら

イベント会場で新作は無料配布

旧作は1部50円で販売いたしますので

手に取っていただけたら幸いです。


また、「なかなかイベントに行けないけど読みたい!」

という方がおられれば、柔軟に対応していきますので

お気軽にご連絡をいただけたらと思います。


それでは、はじまります。

よろしければ最後までお付き合いください!!





第一章



 


 早速だが、いまゲーセンの男子トイレでアタマの悪そうな田舎ヤンキー数人に絡まれている。

 その理由は、格ゲーしているときに対戦モードで乱入してきたこいつらを完膚なきまでに叩きのめしたからだ。ハメ技をつかったわけでもないのにこいつらは3戦目が終了するなりわめきだし、ひとの胸ぐらをつかんでトイレまで連れ込んだ・・・まったく理屈に合わない。

「おい、ナメてんのかコラ」

 茶色で短髪、でも襟足は長いという典型的な田舎ヤンキーヘアの男がものすごくいきがっているが、正直うんざりしている。こいつはいったい何度同じセリフを俺に吐き付けるんだろうか。ざっと数えただけでも、もう8回は言っている。いったいなんだこの無駄な時間は。かつて大仁田厚が長州力に電流爆破デスマッチを申し出に行ったときの「またぐなよ」問答を思い出させる、まるで無限ループのようなやりとり。「お前は長州力か」と言ってやりたい。ああ、これだから低脳なヤンキーは嫌いなんだ。

 あまりにも退屈な展開が続いたので、いっそのこと早く殴られて終わろうと思い、俺は我慢していた欠伸をした。

「テメー!ナメてんのかコラ」

 田舎ヤンキーが激昂の声をあげたが、ここにきても殆ど言うことが変わらない。いったいどれだけボキャブラリーに欠けているんだろうか。もしかしたら幼少時代は絵本の読み聞かせではなくてチャンプロードの写真ばかり見せられていたんじゃなかろうか。やはり教育は何においえてもまず言語の習得を優先すべきだと思わざるをえない。しかたがない、もう一声いくか。

「息、くせーんだよ。オーラ2で歯ぁ磨いたら?」

 ここまで言っても殴りかかってこなけりゃ、こいつら不良じゃない。ファッションパンクならぬファッション不良だ。まぁ『北斗の拳』でケンシロウに軽くあしらわれて「あべし」と言ってそうな顔をしているからファッションにもなりえないが。

 そんなことを考えていたら、田舎ヤンキーは俺を便所の壁にガンと激しく押しつけて叫んだ。

「お前、ナメてんとマジでぶっ殺すぞ!」

 俺はため息まじりで挑発した。

「はいはい、ナメてるナメてる。だから早くぶっ殺してください」

 ここでようやくスイッチが入ったのか、田舎ヤンキーは「おまちょしんだぞてめぇ」とよくわからん声をあげながら拳を振り上げた。

 その瞬間、トイレの入り口のドアが勢いよく開いた。

「あんたら、何やってんだい?」

 田舎ヤンキーたちが一斉に振り向いた先には、一人の女が立っていた。真紅の長い髪にかなりキツめな化粧。黒いレザーのジャケットとミニスカートを身に纏い、髑髏の指輪に鎖のネックレスという時代と逆行しているようないでたち。その表情は凛としており、冷めたような眼差しにはまるでいくつもの修羅場をくぐってきたような凄みがある。田舎ヤンキーたちは一瞬怯んだが、すぐに気を取り直して息巻いてみせた。

「なんだオメー。ここは男子便所やぞ」

 女は表情を変えずにこたえた。

「あんなでかい声出しゃ外まで聞こえるんだよ、チ○カス」

 女から汚いことばを浴びせられた怒りで、田舎ヤンキーはさらに大きな声を張り上げながら女の胸ぐらをつかんだ。

「お前、女だからってナメてっとぶっ殺すぞ!」

 その刹那、女はまるで工事現場の安全靴のようなゴツいブーツで田舎ヤンキーの足を思いっきり踏みつけた。そしてさらに痛みで前のめりになった田舎ヤンキーの顔面に容赦のない膝蹴りを放った。

「何すんだ、このアマ!」

 田舎ヤンキーの仲間たちがそう言いかけたとき、女はかなり低い、それでいて便所中に響くような声で啖呵を切った。

「あたしに喧嘩売るんなら、十回くらい死ぬ覚悟はあんだろうね!?」

 その一言で、田舎ヤンキーたちは完全にビビってしまった。きっとどこぞの名のあるヤクザの女か何かと思ったんだろう。田舎ヤンキーたちはすごすごと便所から出て行った。顔面を蹴られた男はすれ違いざまに「おぼえてろよ」と言ってたが、こんな時代劇に出てくるチンピラのようなセリフを実際に吐くヤツもいるんだなぁと感心してしまった。

 ちらっと背後を一瞥し、田舎ヤンキーたちが去ったのを確認した女は、俺に近づいてきて、不敵にニヤッと笑った。

「あぶないトコだったね。大丈夫?」

 先程の低い声とはうってかわって明るく元気な口調となった女の問いに、俺は溜息まじりでこたえた。

「ねぇちゃん…何、そのカッコ」



 

「いや、ね。ユウちゃんも知っちょうとおり、最初は女の子だけでスピッツのコピーをするバンドやったのよ。でもベースのちぃちゃんがね、ヘヴィメタルが好きなおいさんを好きになっち。ちぃちゃん、そのおっさんに少しでん近づきてえき協力しちくりって泣きながら言うけんみんな断り切れんでさ。やき今日それっぽい服を買って、さっきまで練習しよったっちワケ」
「…で、いったい何のコピー?」
「今日やったのはスキッド・ロウ。次ん練習はモトリー・クルーの曲もやるっち」
「ねぇちゃん、叩けねぇだろ」
「正直、ちょっとしんどいかな。でもやってみたら意外と楽しくってさ。ハマっちゃいそう」
「ふーん。っていうかさ、さっきのキャラは何?いつもと違いすぎじゃね?」
「うーん、人間っち着る服によって性格も変わっちくるってどこぞの女優が言よったやん?たぶんそれよ。ステージに立つ者としてはいつもと違う自分になることっち大事やん?北島マヤみたいなもんよ」
「あっそう」

 まるで博多駅のようにインフラ整備された大分駅の南口のテナント内のファーストフード店。俺はいまそこで姉とちょっと遅めの昼食をとりながらたわいのないハナシをしている。先程はバンド練習帰りの姉の姿があまりにも普段と違いすぎたので少々面食らってしまったが、いまはウィッグを外して栗色の長い髪、萌葱色のタイトなジャージを羽織り、デニムのミニスカートにマゼンタのレギンス、濃緑色のドクターマーチンといった比較的カジュアルな見た目となっている。

「それにしてん、大分駅がきれいになったのは嬉しいけど、明るすぎるよね。もっと薄暗いというか、夜と街の灯りが交わる場所というか、そんな雰囲気がなくなったってカンジ。なんていうかさ、ライオット・シティ・ブルースが足りないっていうか」
「カントリー・ガールは供給過多だけどね」
「ちょっと、なんでわたしを見ながら言うん」

 紹介が遅れてしまったが、俺の名は椎名雄平。大分市内の公立高校に通う高校一年生。今日は学校も休みでヒマだったので書店巡りでもしようかと街に来てみたのだが、興味をそそるような目新しいものはなく、結局小沢健二が表紙のミュージックマガジンとケルアックの『地下街の人びと』を購入したのみ。その帰りにゲーセンに立ち寄ったが、そこで何が起こったかは言うまでもないだろう。
 そんでいま俺の目の前で大口開けてエビバーガーを食べているのが姉の椎名みかん。同じく大分市内の作業療法士になるための専門学校に通っている。昨年からバンド活動に興味を持ちはじめ、いまでは歳の近い女子たちとコピーバンドを組んでいる。今日はバンド練習終了後、普段着ない服を着た記念にメンバーでプリクラを撮りにゲーセンに寄ったら先の出来事にたまたま遭遇した、とのこと。

「ねぇ、帰る前にアニメイトに寄らん?竹達彩奈のシングル、出たっちいうき」
「…一人で行けよ。俺はもう帰る」
「いいやん、電車いくらでんあるし!それにこれだけの荷物、わたし一人で家まで持って帰りきらんし!」
「服も楽器も自分の趣味の結果だろ。自己責任だ」
「てったことふない焼きおごるけん!」

 俺は姉の買い物に付き合うことにした。



 

 かつてのにぎわいが嘘のようにさびれてしまった駅の府内中央口を抜けて、地下道を通ってアニメイトに向かう。姉はスネアとペダルを持ち、俺はヘヴィメタルな衣装の入ったバッグを持って歩いている。4月とういこともあってか、夕方六時前となっても外はまだ明るい。日が長くなったんだろう。

「そういえば十五年くらい前、パルコん駐車場に屯ってるチーマーがエアマックス狩りしよったっち」
「エアマックスって、ナイキの?」
「そう。そのチーマー軍団、”パルコ族”って言われてたんだって」
「アタマ悪そうなネーミングだね。そういう連中はえてして人を傷つけた罪悪感とかなくて、いまものうのうと二酸化炭素を吐き散らしながら”あのころは楽しかった”とかほざくんだよな」

 そんなたわいもない話をしている間に地下道を抜け、先に話題となったいまだに買い手がつかないテナントビルの手前の信号にたどり着いた。

「ねぇユウちゃん」

 信号待ちで姉がこちらを向かずに呼びかけた。声色はほとんど変わらないが、先ほどとはうって変わって少しシリアスな雰囲気だ。

「…学校、楽しい?」
「さぁ、どうだろ。まだ半月も経ってないからね。わかんないよ」
「…ユウちゃん、ともだちつくるのがヘタクソやん。どうなんやろうなって」

 俺は自分でも性格が偏屈で、素直に人と会話することができない人間だということを自覚している。なんというか、きっと心のどこかで自分以外の人間はみんなバカだと思っているんだろう。そんなことを考える自分は浅はかだ、もっと謙虚になり周囲に対して敬意をもって接していかなきゃ…そう思っているのにそれができずにいる。だからいままで友達らしい友達もいなかった。俺自身は当然の結果だと思っているしさほど気にしていない。だけど姉がそのことについて心を痛めていることに、申し訳ない気持ちもある。

「まぁ、なんとかやってみるよ」

 そう答えた俺の顔を見て、姉は微笑んでみせた。その目にはどことなく憐憫を含んでいる気がして、俺はいたたまれなくなって俯いた。

 信号が青に変わり、旧パルコ前にさしかかる。そのとき、姉が男性から声をかけられた。

「どうもこんにちは、『フラッシュ・オン・ザ・ロード』の笠置です!インタビューお願いしてもいいですか?」

 言われて気づいたが、この人は若者向けのローカルテレビ番組『フラッシュ・オン・ザ・ロード』のリポーター・笠置芳雄だ。きっとこれはその番組のワンコーナーで大分駅近辺を歩いている若い女性にインタビューをする”街の若ぇもん”の収録だろう。

 声をかけられた姉は困った顔でこちらを見た。俺は姉が何を言いたいかを察知した。

「どっちでもいいんじゃね?映ったとしても大分ローカルだから」

 姉は不安気ではあったが、ふと何かを思いついたような顔をして「いいですよー!」と笠置リポーターに元気よくこたえた。

笠置リポーター(以下笠):えー、お名前をうかがってもよいですか。
椎名みかん(以下み):椎名みかんです。
笠:学生さんですか。
み:はい。専門学校に通ってます。
笠:(みかんのとなりにいる、フレームアウトしている男性を見て)今日は彼氏さんとデートですか。
み:彼氏?あっ、違います。弟です。かわいいでしょ。
笠:弟さんですか。仲が良いんですね。
み:えへへ。
笠:ところで今日のリポートテーマは「好きな教科」なんですが、みかんちゃんが好きだった教科は?
み:うーん、世界史かな。
笠:へぇ。世界史のどんなところが良いの?
み:教科書や資料集に載っているむかしの人が描いた絵!最高に萌えるんですよ。
笠:も、萌え?
み:どの時代も良いけど、ルネッサンス以前の中世の絵なんか激萌え! 『カノッサの屈辱』なんてときの神聖ローマ皇帝ハインリヒ4世が叙任権闘争でグレゴリウス7世から受けた破門を取り下げてもらうために自ら謝罪に向かうっちゅう西洋史上でん重大な事件なんに描かれた絵からはそんなテンションがいっそんでちょらん。むしろ気持ち悪いくらいの表情の乏しさ。だがそれがいい!それと…
笠:そうなんだ!歴史に詳しいね!高校時代、成績良かったんだろうね。
み:いや、商業高校だとそこまで教えてくれないんで。
笠:え?
み:普通科の高校に通うともだちの教科書を読んで勉強したんですよ。ともだちがカラオケで歌いよる間とかに。
笠:へぇ…みかんちゃんって面白い娘だね…。
み:そうですか?まだ爆笑トークしてませんけど。
笠:…では恒例の、最後にカメラに向かって一言!
み:(ニカッと笑って弟をフレームインさせる)わたしの弟、ユウちゃんと面白いことやってくれる愉快な仲間を募集します!テレビの前の燻っている若人よ、いまこそ立ち上がるとき!あて先はこちら!(言いながらフレーム下を指さす)

「…はい、どうもありがとうございました」

 明らかに苦笑いしながら去っていく笠置リポーターを見送る姉の顔はそれ以上に苦い顔をして笑っていた。

「しまった…ノープランでしゃべっちゃった」
「最後らへんなんか、完全にSOS団っぽかったもんな」
「…ユウちゃん、ごめん。つい引っ張り出しちゃった」
「いいよ、別に。それにどうせ大分でしか映んねぇし」
「…そうやね」
「っていうかこれはオンエアされないだろ。内容が内容だし」
「え、なんで?わたしマズイこつ言った?」
「…それより早く買い物して帰ろうよ」

 この後は姉が目当ての品を無事に手に入れ、ふない焼きのうずらとてったこのねぎぶっかけを持ち帰りで購入して帰宅した。

 翌日、『フラッシュ・オン・ザ・ロード』であのインタビューがほぼノンカットで放映された。ラストにはご丁寧に「大分テレビ ユウちゃんの仲間募集係」というテロップがついていた。






第二章

 

 窓際の席から外をずっと眺めている。校庭の隅で佇んでいる桜はもうほとんど花が散ってしまい、生えたての緑葉と残り幾許も無い花弁が入り混じっている。つい数日前まではもてはやされていた桜もこの時期になるとむしろ邪険に扱われ、気が付いたら次の花が咲く季節までその存在を完全に忘れ去られてしまう。

「・・・く・、・いな・ん・・・」

 どうしてみんな花が咲く季節でしか桜を見ようとしないんだろう。桜の新緑はまるで逞しい生命力を謳歌しているように見えるほど眩しくも濃い色をしているのに。それに葉が散ってしまった冬場でも橡と違って簡単に折れないほど枝が瑞々しいことも全然知られていない。桜はその気になればどの季節でも魅力を見出すことができるのに。そういえば以前誰かが「夏場の桜は毛虫がいっぱいいるからイヤ!」なんて言ってたな。たしかにそうだけど、良いところも悪いところも含めてそれが桜だから。こんなことを考えるのって俺だけかもしんないけど、もしあのとき…

「椎名くんってばぁ!」

 思いっきり肩を数回揺さぶられてようやく気付いた。さっきから何か声が聞こえると思っていたが、俺を呼ぶ声だったとは。

「はい、ノート。ホントに助かったよ、ありがとー」
「あー、そういや貸してたっけ。忘れてた」

 iPodのイヤホンを外して、俺は彼女に貸していた化学のノートを受け取った。
彼女はクラスメートの水美(みなみ)南美(なみ)。クラスの中で唯一俺に面と向かって話しかけてくる奇特な女だ。

「そろそろ先生来るから、ソレ隠したほうが良いんじゃない?」
「ああ、もうそんな時間か。そうだな」
「ねぇねぇ、何聴いてたの?」
「クラフトワーク」
「・・・」

 概ね予想通りの反応。この場合は「洋楽」と答えた方がベターだったかもしれない。正直、こういうことに気を遣うのはめんどくさい。

 彼女は頭上に「?」が出てそうな表情できょとんとしていたが、ふと何かを思い出したかのようにニパッと笑い、ちょっと意地悪そうな顔で尋ねてきた。

「そういえば聞いたよ、昨日のテレビのハナシ!反響、どう?」
「おかげさまで好奇の目で見られているよ、遠巻きからね」

 これも予想通りであったが、朝からかなり多くの生徒が俺のことをチラッと見て、何か言いながら笑っている。何を言っているかはだいたい分かる。シチュエーションとしては井戸端会議をしている奥様方が「ねぇちょっと見て、噂をすればあの人よ」とその人を見てヒソヒソと聞こえないように会話するというテレビドラマでよく見かけるあの場面、といえばわかりやすいだろう。クラスでも浮いている根暗な男がテレビに出て目立てば、たいがいこういう反応になるだろう。

そうかと思えば、知性のカケラもなさげなDQNたちが下品な笑い顔を浮かべながら

「おう、お前のねえちゃんおもろいやん。俺に紹介してくれや」

と人を小馬鹿にするような口調で話かけてくる。自分で言うのもアレだが、姉はけっこうモテる。それは見た目もあるだろうが、明け透けで誰に対しても愛嬌を振りまくような性格だから男ウケが良いのだろう。そんな姉目当ての銀蝿たちに対して、めんどくさいからテキトーにあしらって無視しているが、きっとこれで余計に周りからの顰蹙を買ったことだろう。

っていうか基本的に俺に声をかけてくるのは学校行事の事務的な内容を伝える人か姉目当てで近づいてくる野郎くらいという。そのなかでも水美は珍しい存在ともいえるが、彼女は俺に限らず誰に対しても同じように接するので本人にとってはなんでもないことかもしれない。

「あんたさ、あまり俺に声をかけないほうがいいよ。くだらないとばっちりを食らうから」

 水美はきょとんとした表情を浮かべた。
「えー?なんでー?」

 彼女は俺がクラスでどういう立ち位置にいるか分かってないのだろうか。それともどうでもいいと思っているんだろうか。いずれにしてもおおらかな性格だ。

「いや、別に」
「っていうか、”あんた”ってのはやめてよー。なんかよそよそしいじゃなーい」
「…じゃあ”君”にする」
「それもなんか違うし!みんなが呼ぶようなカンジにしてよ、”みなりん”とか!」
「…やだよ、恥ずかしい」

 姉以外の女とこういう会話をするのは慣れてないせいか、なんとなく居心地が悪い。そう思っていたら

「おいナミ、何やってんだよ!ちょっとこっち来いよ!」

とクラスのDQNが彼女を呼び、彼女は「じゃ、またね」とそちらに行った。

もしかして彼女が俺に声かけてくるのは、あいつらからやらされてる罰ゲームか何かかだったりするのだろうか。そんなことを考える俺は周りが思っている以上に根暗で卑屈なのかもしれない。

彼女が去った後の香水の残り香は甘い匂いがした。なんとなく、「俺と違って遊び慣れているな」って感じた。



 

 オンエアから五日経った金曜日。

 これもまた予想通りで、もうそのことを話題にする者は誰もいなくなった。当然だ、俺に関する話題の鮮度なんざ三日ももつはずがない。

 あの収録の後、帰りの汽車のなかで姉は

「まぁちょっと強引やったけど、これでユウちゃんに愉快な仲間が集まっち楽しいことや面白いことが起きたらいいなぁ。そしたらきっとはじまると思うんよ、わたしの第三次世界革命!」

と嬉しそうに話していた。姉はテレビに出ることにかなりの覚悟があっただろう。それは俺を心配する気持ちからきていると思うとそれに応えてあげたいという気持ちはある。でも、結局何も起こらなかったことに俺は安堵している。姉には悪いけど、俺に革命なんか必要ない。求めてはいけないんだ。

「ただいま」

 今日は金曜日なので、母さんはもう仕事に行ってるだろう。姉はバイトがあるから遅くなると言っていた。とりあえず母さんが用意している夕食を食ったら部屋に積んである本でも読もう。

 そんなことを考えながらおかずのからあげをレンジであたためていたら、「チン」という音と同時に玄関の鍵が開く音がした。

「ただいま!ユウちゃん、グッドニュース!!」

 ダイニングに入ってくるなり、姉は興奮気味にそう叫びながら温めていたからあげをひょいとつまみ食いした。

「行儀わりいぞ。ってか今日バイトは?」
「あー、シフト代わってほしいっち人がおったけん今日はなくなったんよ。って、そげなこつはどげでんいいんて!」

 姉はキッチンでていねいに手を洗い、俺の向かいに座って満面の笑みを見せた。

「さっきテレビ局から電話があってね、なんと何人か応募者がおるっち!!」
「…マジで?」

 こういう展開も予想してなくはなかった。だけどあんな軽いジョークにしか見えない募集のテロップを見て応募する人がいる可能性なんてほぼ皆無だと思っていたので、やはり動揺してしまう。

「そんでね、応募した人たちみんな明日なら都合が良いらしいんよ。ユウちゃんが問題なかったら、明日どうかなって思ったんやけど」

 本音は、かなり気が乗らない。面倒くさいことこのうえない。しかし、姉は笑いながらも俺が断ったらどうしようというどこか心配そうな表情をしてこちらを見ている。だったら答えは決まっている。

「わかったよ。明日だな」
「ええっ、いいの!?ホントに!?やったぁ!!」

 姉は、まるで志望校に合格した学生、いやそれ以上といってもいいほど喜びを爆発させたような歓声をあげた。

しかたがない、姉の第三次世界革命に付き合ってやるか。

「ところでさ、どんな人が来るんだろう」
「あー、それなら聞いてるよ」

 姉はポケットからメモ帳を取り出して、その内容を読み上げた。

「えーっとね。メイドさんと宇宙人、世界を救う勇者さんだって」

 俺は先の自分の決断を早々に心から後悔した。




続く
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

rocketdive!

Author:rocketdive!
大分県で開催するアニメ・特撮・ゲーム・声優・ボカロなどを大プッシュするクラブイベント『ろけっと☆だいぶ -Rocket Dive!-』の実行委員会によるブログです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。